<112> ラヴェンダーに関する記事

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フレングランスジャーナル社のアロマトピアに記事を書きました。年に何回も書かせていただき、毎号の英文目次の翻訳も何年もさせていただいています。今回は「ラヴェンダーの成分と作用について」でしたが、基本中の基本の題目でどのように興味深い記事を書くかしばらく悩みました。ふっと思いついたのが過去の文献ではラヴェンダーはどのように効果を認められていたかを調べてみよう!と思い「サレルノ養生訓」からシュタイナーまで家にある本やPubmed、アメリカ国立保管統合衛生センターまで数日じっくりと調べました。私たちアロマテラピストたちには当たり前のラヴェンダーの作用を様々な時代の様々な角度から書かれた文献を読むことにより、新たな発見がたくさんありました。


実際の記事にはラヴェンダー4種(真正ラヴェンダー、ラヴァンジン、スパイクラヴェンダー、ストエカスラヴェンダー)の成分と主成分の作用を示したり、順序立てましたが、ここでは過去の文献の抜粋した部分を紹介します。例えばイスファハンにいたイブン·スィーナがラヴェンダーのことを書くのは腑に落ちない感じでしたが、実際ユナニ医学はギリシャから来た医学なのですからラヴェンダーが入っているのは自然なことなんですね。それとルネ·モーリス·ガットフォセはテルペンレス精油を使用することを勧めていました。見解がそれぞれで引き込まれます。


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<著名な文献に記述のあるラヴェンダーの作用>


  • ディオスコリデス: ラヴェンダーは薬用植物であり、浸出液は消化不良、頭痛、悲しみと胸部疾患に良い

  • 大プリニウス: 月経障害、胃のもたれ、腎臓障害、黄疸、めまい、虫刺され

  • イブン·スィーナ:著書 Al Qanun fi’t Al-Tibb(医学典範)にはラヴェンダーは温める効果があり、鬱滞を軽減し動かす働きがある。冷の体液(粘液、黒胆汁)に良く、ストエカスラヴェンダーを局部的な鎮痛作用と抗炎症作用があるとし、偏頭痛、腫瘍、無嗅覚症のために使用を勧めた
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  • ヒルデガルド·フォン·ビンゲン: ラヴェンダーは純粋な知識と魂を与えてくれる。ラヴェンダーの花を入れたワインを飲むと肝臓と肺の障害に効果がある

  • ニコラス·カルベパー: (Lavandula spicaについて)水星の支配のもとにあるハーブ。特に頭部に効果を発揮し寒さによる痛みに良い。水腫、麻痺、痙攣、腹痛、ひきつけ、気絶、女性特有の障害、循環が悪く停滞した不活発な状態を助ける。胃を強化し、肝臓や脾臓の障害による苦しみから解放する。ワインにラヴェンダーの花を浸出したものを飲むと胃腸の問題に良い。精油については強力なので注意深く使用し、数滴で外側、内側の病に十分であるとし、ハイドロレートについては声枯れ、震え、気絶、恋の病に良いとしている

  • ルドルフ·シュタイナー: 魂のネガティブな状態のためによい。それはアストラルボディが肉体を強く支配しすぎている時であり、痙攣や緊張、麻痺、神経疲労が起こる。シュタイナーの言うアストラルボディは自律神経系と実質上同じであり無意識的な経験からくるものである
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  • ルネ·モーリス·ガットフォセ: テルペンレス·ラヴェンダー精油を使用することを推奨している。1910年に起こった実験室での火傷について著書に書かれており、1回だけ精油で洗浄しただけでガス壊疽を食い止め、治癒に向かわせたとしている。他に数名の医師の所見によると感染した傷、潰瘍生発疹、蜂窩織炎、事故による傷の洗浄、打撲、静脈瘤など数々の症状を治療した例があげられている

  • ジャン·バルネ博士: 鎮静作用や鎮痙作用について、量が多いと興奮剤となるとの注意書きがある。体表と体内の消毒作用、殺菌作用、利尿作用、強壮作用、瘢痕形成作用、通経作用など。あらゆる創傷に対する効果を紹介し、火傷や酒皶(クーペローズ)、抑うつ、頭痛、感染症、円形脱毛症などに勧めている。使用法は内用と外用両方扱っている。スパイクラヴェンダーについては興奮を鎮め、殺虫剤としても使用。ラヴェンダーのハイドロレートは眼瞼炎のために使用された

  • カート·シュナウベルト博士: ラヴェンダーの各成分が独自の多面的作用の幅を持っている。リナロールはラヴェンダーの主成分で、HMG CoA還元酵素を抑え(抗腫瘍作用、抗真菌作用)、けいれんを軽減し(抗てんかん作用)自律神経系の活動を調整するなどの効果を同時に示す。リナロールはその上、もう1つの主要成分である酢酸リナリルの多様な生理作用と共に層を成して作用する。さらに多様なモノテルペン炭化水素の効果もある。例えばミルセンは活性基捕捉剤として働き、肝臓解毒酵素を誘引する。ラヴェンダー精油に含まれる1200以上の成分が確認できているので、このリストは際限なく続けることができるだろう。これらのすべての成分の生理作用がたくさんの層を成しており、独自の性質を創り上げていることが直観的に理解できるだろう。精油が我々の身体と相互作用しているとき、莫大な数のプロセスが起こっている。これを最も良く理解するためには、生命体という観点で考えると良い。それは科学的プロセスと実際の日常生活での経験を一線上に結ぶものである。その例としては、反対意見をはさむことのできないラヴェンダーの火傷を治癒させる特性である。化学成分からはラヴェンダー精油の火傷への優れた作用は解明できない・・・「プラント・ラングエージ」より


このようにたくさんの作用への見解が集まりました。植物とどのようなスタンスで関わっていくか、どのような世界観を持っているのかなどで様々な意見があり、ラヴェンダーと言っても奥深い・・・・自分はひととおり知っているんだなんて思ったら大間違いですね〜

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# by lsajapan | 2018-04-12 18:06 | 精油について

<111> 今度は占星術の新年を迎えて

あっという間に3月。春分の日を迎えて焦っております。「プラント・ラングエージ通信講座」の翻訳にかかりっきりで、ここまで来てしまいました。内容は超充実、4月には翻訳完了でシュナウベルト博士のコースを始めます!すでにプレスタートで始められている熱心な方々もいらっしゃいますので、私も全身全霊で頑張っています。日本では言葉のバリアもあり、十分伝わっていなかった英語圏以外の(特にフランスとドイツ)のアロマテラピーの伝統的な部分と最新情報の決定版です。翻訳しながらすごく勉強になっています。
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シュナウベルト博士の原稿の上にはプトレマイオス著の「テトラビブロス」・・・なぜと言われれば、占星術のクラスもやっているので、そちらの用意も一緒にしている風景なんです。2世紀に書かれた本と考えるだけで不思議な気分になります。

今回の占星術リーディング特講は、私自身も深く感ずるところがあり授業の用意をしながら夢中になっています。紹介する人々の中でも印象に残ったのはJ.K.ローリングの「ハリー・ポッター」が生まれるまでの経緯と、彼女の土星だけが飛び出しているスリング型チャート。それと錦織圭の山羊座6つ集中。スティーブン・スピルバーグとビル・ゲイツのチャートに現れている内向性の中にキラリと光るひらめきなどです。2人共、地平線の下にほとんどの天体があり、蠍座に天体が3つずつ、デトリメントの金星はノーススケールとコンジャンクション。占星術のチャート・リーディングは宇宙語翻訳だと思っています。

先月は生活の木でセミナーをさせていただき、とても楽しかったです。「ホリスティック・ビューティーのために」という題目でアロマテラピーでどのようにケアをして10年先も活き活きと活動するかというテーマでした。100名ほどの参加者は熱気いっぱい。「美しさはその人の魂の反映である」オードリー・ヘプバーン
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皆とても熱心に聞かれていらっしゃいました。質問コーナーもあればよかったです
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サンプル・ブレンドはロビーに展示してくださいました
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佐々木薫さんとツーショット

昨日は占星術での新年にあたり、牡羊座0度の12サインの最初の度数に太陽がやって来ました。サビアンシンボルでは”A Woman Just Risen From The Sea; A Seal Is Embracing Her”で「アザラシに抱かれた女性が海から上がってくる」という不思議なメッセージが。でも今日のインターネットニュースにはこんな可愛い写真が!生後4日目の赤ちゃんアザラシだそう。
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そろそろ翻訳に戻らなくてはなりませんが、来月はインドネシアのジョグジャカルタで開催される精油のカンファレンスに呼ばれています。5年前は一参加者でしたが、今回は2枠もレクチャーすることになりました。シュナウベルト博士もフランコム博士も長島司先生もいらっしゃいます!お話を聞きたい精油の会社(オーストラリアン・サンダルウッドの栽培供給会社)などもいらっしゃるそうで、とても楽しみです。前回グループで行ったので、お昼近くで満員電車並みだったボロブドゥールも今回は夜明けに行って瞑想をしたいなあと思います。また追って報告しますね!







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# by lsajapan | 2018-03-23 00:35 | 近況報告

<110> 新年を迎えて

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もう半月が過ぎてしまいましたが、クリスマスからお正月にかけてシュナウベルト博士の新しい通信教育コースのテキストの翻訳を続けています。素晴らしい内容で、初夏までには出版になる「プラント・ラングエージ」に関連したことから、さらに深い知識が豊富にあります。産地を回らなくては知り得ないことや、なかなか教えてもらえないことなどが詳細に書かれています。中には私自身27年間教えながら学んできても答を得られなかったことが、さりげなく書かれていて驚きます。

過去10年間の関わりの中、シュナウベルト博士はたくさんのことを教えて下さいました。この通信教育コースと「プラント・ラングエージ」の本の中にはその知識と特別な経験が詰まっています。コンピューターと原稿に向かって1日の多くの時間を過ごしつつも、翻訳しながら過去の産地への旅行やシュナウベルト博士のセミナー、個人的な会話ややり取りが頭の中で再現されて世界中を旅している感じです。今までのアロマテラピーの知識を高めて、最新版にアップデート、アップグレードしたい方にお勧めです。以下のウェブサイトはコースの案内ですので、興味がございましたら一読してください。産地の情報から近代のアロマテラピーの歴史、なぜこのような状況になっているか、精油の見極め方など、アロマテラピーを学んでゆくエキサイティングな旅をシュナウベルト博士が案内してくれます。今年もどうぞよろしくお願いします!
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カート・シュナウベルト博士のプラント・ラングエージ・アロマテラピー通信コース
http://www.lsajapan.com/correspondence/plant-language/

長らくお待たせしたシュナウベルト博士の「プラント・ラングエージ」がフレグランスジャーナル社より2018年春~初夏に出版予定です。これに先立ちまして、シュナウベルト博士の強い要望により最新情報を満載したフランス式アロマテラピーの通信コースを2018年4月より開始予定です。

今までのアロマテラピーのアプローチの問題となっていた禁忌と安全性の見解の違いなどを鋭く分析し、新しいアプローチを紹介しています。さらにアメリカとドイツで絶大な人気を持つシュナウベルト博士の書き下ろしの最新コースを少しでも早く勉強したいという方に、2018年1月20日よりアメリカよりも早く皆様にお届けする企画をしました。

精油の学習は化学だけでなく生物学、生育地の歴史や文化的背景を学ぶことにより、より深く理解することができます。このコースではフランス式アロマテラピーでの精油の解説をすると共に、偽和のない精油を見分ける方法を教えます。アップグレードした高度で洗練された最新のアロマテラピーの知識を学べます。
精油の50種のサンプルセットはコース料金に含まれます。コースの中では番号と学名で示した精油を指示どおりに試して、実際に香りを比較したり使用感を経験したりして知識と実践を積みます。今までは本で読んでみたものの、実践となると精油の質が不明確になりやすい一般的なアロマテラピーの学習の欠点を改善しました。

コース執筆者
ピエール・フランコム:世界中で最も進んだメディカル・アロマテラピーの研究をしている。当コースでは精油の電子顕微鏡での精油の殺菌作用のデモンストレーションとクラミジアに対するThymus vulgaris CT thujanolの効果の項に貢献していただきました。
ダニエル・ペノエル博士:クリニカル・アロマテラピーのパイオニアの1人。ピエール・フランコム氏と共に数々の感染症や他の症状に対して精油を使用したプロトコル(手順とレシピ)を確立。当コースでは第4章を中心に紹介。
カート・シュナウベルト博士:ドイツでベストセラーに選ばれたこともある「アドバンスト・アロマテラピー」の著者。ミュンヘン工科大学の化学博士号を持つ。1985年カリフォルニアでパシフィック・インスティテュート・オブ・アロマテラピー(PIA)を開設。
モニカ・ハーズ:PIAのマネージング・ディレクター/アロマテラピスト。フランス式アロマテラピーを統合し、慢性症状や現代病に対するプロトコルを紹介。30年以上の経験から第5章で紹介しているレシピの効果は安全性、効果とも明確となっています。

以下はウェブサイトでご覧下さい。
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# by lsajapan | 2018-01-16 12:59 | 近況報告

<109> 1年を振り返って

あっという間に1年が終わろうとしています。本当に早いですね。大きな出来事としては、4月にオマーンに行き、ついにフランキンセンスの樹を観察して樹脂のグレードや使用法などリサーチすることができ、長年の夢が叶いました。この度については以前のブログに書きました。
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マスカットのアル・ブスタン・パレス・ア・リッツカールトンにて
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フランキンセンスの花
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スルタン・カブース・グランドモスクにて
(髪の毛〜手首〜足首まで女性の魅力的な部分は全て隠す!)
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印象的なルブ・アル・ハリ砂漠・・・忘れられない時間です

9月にはベイエリアで休暇を過ごしましたが、その後に森林火災が起きて民家なども焼けて本当に心配の毎日でした。兄の家の数キロ先まで火災が接近して、屋根の枯れ葉を全部どけて、もらい火を防ぐのと同時に重要な物を車に積んでいつでも逃げることができるように用意してたそうです。現在はロスアンジェルスの方で同じような森林火災が民家に飛び火しており、まだ45%しか鎮火できていないようです。焼け跡の写真は高熱で焼けたという事がはっきりわかる程何も残っていない状態です。インターネットでの現地の動画やインタビューなど痛々しい限り。ある女性はいよいよ火の手が迫った時、ご主人が"Everything can replace, let's get out here."と言ったそうです。究極のことを考えれば、大事な古い写真や思い出の品以外はすべて買い替えれば良いわけで、命に代わる物はないですよね。それも一旦火がつくと、あっという間に囲まれるような状況だったそうです。
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火事の起こる前のサンタローザの風景
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全く同じところではありませんが、火事の後のサンタローザの様子

友人はサンタローザエリアで飼い主とはぐれてしまったペットたちの保護と管理と飼い主を捜して返してあげるボランティアをしています。足に包帯を巻いた猫や犬たちが大切にケアを受けている写真をたくさん見せてもらいました。本当に火が回るのが早く、ペットだけではなく1頭2800万円もするサラブレッドたちが逃げ切れずに25頭も焼け死んだそうです。馬主や調教師たちが懸命に助けようとしたそうですが、自由に逃げるように放しても馬たちが怖がって火のついている馬小屋に戻ってしまったり、パニックになってぐるぐると円を描いて走ったりしたそうです。
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10月中旬には京アロマカンファレンスのスピーカーとして招かれて京都に行き「アロマテラピーの新しいアプローチ」について講演をして来ました。様々な方々が日本の香りの文化をになっていると言う事を知り、頼もしく感じました。この時は大徳寺の中に宿泊させていただき、素晴らしい3日間を過ごしました。結婚30周年の良い記念になりました。
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シュナウベルト博士の「プラント・ラングエージ」関連の翻訳や調べものがたくさんあって、今年の後半はIFAコースの他は占星術とサトルアロマテラピーのクラスくらいしか教えることができませんでした。時間がかかってしまいましたが、来年の春から初夏にかけてフレグランスジャーナル社から本が出版されます。本当に素晴らしい内容です。
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シュナウベルト博士の撮ったヘリクリサム精油
蒸留中でハイドロソルが混入した状態

それと連動してシュナウベルト博士のアロマテラピー通信コースを始めます。現在翻訳中ですが、早期スタートコースも募集中です。精油とのセットでコースの進む中で50種の精油を使用しながら進めて行くユニークなコースです。これで勉強すると本物の精油と一般的な精油の違いがよくわかるようになります。ワインやコーヒーなどと同じで良いものを知ると、普及型のレベルの製品は受付けなくなってしまいます。悪いグレードの精油を使用しても出て来ない結果が、良い精油を使用するとはっきり出ます。具体的にはシュナウベルト博士の書籍やコースで詳しく説明しています。
http://www.lsajapan.com/correspondence/plant-language/

今年もロタンシエルのクリスマス・セールをしていますので、ショップサイトを見て下さいね! 
http://lsajapan.shop-pro.jp
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グリーンコーヒーエクストラクトは現在アメリカで注目株の精油です。それとブラックパインやブラックスプルースなど、ストレスや心身症のために素晴らしい効果がフランス式アロマテラピーではよく知られている針葉樹精油を産地から直接仕入れています。ラヴェンダー・メイレット(真正ラヴェンダー)は今年のものは特に格別です。素晴らしい香りと効能で是非お試し下さい。

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# by lsajapan | 2017-12-19 21:40 | ロタンシエル

<108> 蒸留の歴史

フレグランスジャーナル社のアロマトピアに蒸留の記事を書きました。かなりリサーチして、なかなか手に入らない文献も参考にしてまとめたので、良い記事に仕上がったと思います。全文ではありませんが、良いところを抜粋しました。参考にしてくださいね!
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イブン・スィーナの”Cannon de Medicine"より


蒸留の歴史

はじめに

蒸留は古代からの技術であり、純粋な物質を取り出す方法として実践されてきました。精油を抽出するだけでなく、アルコール飲料にも密接に関わり合いがある上に、錬金術から始まる化学の発達にも重要な役割をし、常に文化的背景や歴史が深く関わりました。

蒸留の初期の目的として以下のものがあげられます:

(1) 海水から真水をとる(船員などが飲料水を得るため)

(2) 穀類やフルーツからアルコールを蒸留する(アンブロージア、オー・ド・ヴィーなど)

(3) 固形物を乾燥した状態で蒸留する(松やに、金属など)

(4) 物質から第五元素を取り出す(不老不死の薬、エリクシール、精油など)


蒸留器について

基本的には液体を熱により気化し、その蒸気を集め冷やし凝縮させる器具ですが、様々な名前が付けられました。ククルビット(cucurbit)はフラスコに当たり、原料を入れる耐熱容器で、アランビック(alembic)は蒸気が集まる部分を指します。レトルト(retort)はククルビットとアランビックが一体になったものを指すようです。アパラタス(apparatus)とは、現在の化学実験器具の原型で特定なものを指すのではなく、実験器具全般のことを意味します。これらは古代から存在しましたが、中世の錬金術で盛んに使用され改良が加えられていきました。

中世の錬金術では"賢者の石"を抽出し、これにより尽きることのない生命力と財力に恵まれると考えました。賢者の石を創造する、または取り出す工程は"大いなる作業"と呼ばれ、燃焼(乾いた道)と蒸留(湿った道)という2種類の方法がありました。湿った道の方法は、フラスコに材料を入れて密閉した後にアタノール(athanor)というかまどで数十日間加熱しました。蒸留に際して大切なのが火加減と水の量、そして冷却水ですが、昔は十分に冷やすことが出来なかったため、冷却器を使用する現代と比較すると能率が悪かったようです。


先史時代

蒸留の歴史は紀元前にさかのぼり、最古の蒸留器はパキスタンのタキシラ博物館にある約5000年前のインダス文明のテラコッタ製のものだと言われています。これは沈香木や白檀、ベティバー、パンダナス属の花などから芳香蒸留水を抽出したと考えられています。

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アフリカやインドでは瓢箪と竹でできた蒸留器が昔からあります。インドは特に地方によって様々な形態の蒸留器が見られます。中でもマイソール地方(南インド)のものは最も良質で、蒸留技師は特定のカーストに限られていました。ククルビットは土の中に埋められ、別の穴を横に開けて加熱し、中には様々な発酵した植物原料(米、モラセスなど)の液体を入れて密閉し、上部の器には冷たい水を注ぎ続け、脇に伸びた管から凝縮した液体が出て来る仕組みです。素材は金属か土器でした。
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古代

古代ギリシャでは紀元前4世紀にアリストテレスが"気象論"に水が空気に触れていると次第に量が減り、最後には消失すると説明しています。太陽は水を目に見えない気体にすることを早め、温度が下がると空気から湿気が戻って来て目に見えるようになるため、海からのぼる蒸気は雲や雨、霧、露などの根源だと記述しています。また、蒸留のことを"ワインの蒸発気体に関するプロセスである"とも書いており、すでに蒸留酒の存在が伺われます。"沸騰させる”という言葉は古代ギリシャでは蒸留を表す言葉であり、その時代の自然科学者たちは海水を沸騰させて真水を採取する方法として蒸留を提案しました。


1世紀の博物学者/政治家プリニウスは"博物誌”において、各国のワインを始めとした飲み物について詳細に記述しており、発酵酒から造り出した"水"が酩酊させることに言及しています。プリニウスはスペインの総督をしていたので、貿易で有名なフェニキア人の前の植民地であったスペインにはすでに蒸留酒があり、それを実際に見たのだと思われます。同じ時代に医師/植物学者ディオスコリデスは"蒸留とは辰砂(しんしゃ)から水銀を抽出する方法である"と描写しています。


その後、アフロディシアス(現在のトルコ)の哲学者アレクサンドロスが3世紀ごろに研究をし、蒸留水に関しては知られるようになりました。3〜4世紀のアレクサンドリアの錬金術師ゾーシモスは"神聖なる水について"や"器具と炉に関する論文"などの著書があり、その中には水銀や蒸留器の記述があります。このように錬金術師たちにより研究は続けられ、アレクサンドリア学派の学者たちの中にはヒパティア(液体比重計を考案)やエジプトのマリア(湯煎を考案)などの女性も存在しました。この研究者の中にはキリスト教に改宗することを拒絶したために、全ての著書を焼き払われるというような迫害も受けました。その後、アレクサンドリアはイスラム支配となり、蒸留の技術やアレクサンドリア図書館の知識はアラブ人たちの手に渡ります。


中世

8世紀の自然哲学者/錬金術師ジャービル・イブン・ハイヤーンは貴金属を溶かすアクア・レジーナ(塩酸と硝酸の混合物)を考案したことで有名ですが、アランビックと呼ばれる蒸留装置を考案したとも考えられています。


著書である"黒き地の書(Kitabal-Kimya)"には硫黄・水銀説が説かれ、この本の“al-Kimyaは"アルケミー(錬金術)"または"ケミストリー(化学)"の語源となりました。

9世紀にはアラビアの哲学者/錬金術師アル・キンディがアルコールを初めて蒸留したと言われています。また、医師/哲学者アル・ラジィはイブン・ハイヤーンの生徒であり、著書"秘密の中の秘密の本(Kitab sirr al-Asrar)"にはローズウォーターについて記述していますが、自分1人で見つけ出したのではなく、世代としての成果だと書かれています。イブン・スィーナの本にも蒸留器の説明が見られます。抽出したものは"スピリット"または"魂(nafs)"と呼び、残渣を"物体(Body)"と呼びました。アラビアの化学が発達は、硫黄・水銀説の影響により、蒸留が最良最速で純粋な物質が得られると考えられ、様々な実験が試みられたことが背景となっています。


古代ギリシャ/ローマでの発明をイスラム支配により、それまでの各国の蒸留の知識と実践を無視して、蒸留はアラビア人が初めて発明したと書いた本は真実を語っていないという主張をする文献も何冊か見られます。一般的には"イブン・ハイヤーンが蒸留を発明したというのは真実でない"と書かれています。一方、アロマテラピーのテキストでも頻繁に"蒸留法を考案したのはイブン・スィーナ"との記述がありますが、正しくは"蒸留法の詳細を本に記述した1人がイブン・スィーナ"ということでしょう。最初に発明したのではないことは確かです。

10世紀のビザンティン(東ローマ帝国)の書物には"ロドスタグマ"という精油について記述がありますが、これはローズの葉を蒸留したものです。この頃はすでにアラブ世界ではローズの花精油も蒸留していました。アラビア人やムーア人がスペインに侵入するのと共に、蒸留技術や科学がヨーロッパに伝わりました。12世紀にはコルドバの医師アルブカシスがローズウォーターやワインの蒸留法について、器具を含め詳細に書き残しています。蒸留の技術はスペインからフランスに伝えられ、裕福な家では家庭内での蒸留を行なうようになります。蒸留した"スピリッツ(精)"は薬用として使用されました。

同時期のイタリアでは医師でボローニャ大学教授のタデオ・アルデロッティが分留を考案します。これは原料から蒸留の過程により必要な成分だけを取り出す方法です。14世紀には修道院で蒸留酒の製造が許可され、"アクア・ヴィタエ(生命の水)"と呼ばれます。この頃の修道院は病院の役割もしており、ハーブガーデンでは薬草が栽培され、特別な治癒作用のある蒸留酒の処方に使用し、現在のベネディクティーヌやシャトルーズとして残っています。

フランスではアクア・ヴィタエの商業的な生産も1313年には始まります。イタリアではアクア・ヴィタエを一般向けに1378年に販売を始めています。法的な書類ではイギリスにおいて最初にアクア・ヴィタエをモルトから蒸留したのは1494年となっていますが、実際の蒸留はもっと昔から行なわれていました。"ウィスキー"も語源をたどるとケルト語の“usique-beathaという言葉から来ており、これも同じく"生命の水"という意味です。

15世紀にはドイツの外科医/植物学者/錬金術師ヒエロニムス・ブルンスウィグは蒸留の技術をLiber de Arte Distillandi de Simplicibus(簡単な蒸留技術についての本)と言う題名の本にまとめました。

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この本の特徴は最も初期の印刷本であったということと、植物性と動物性の物質からの蒸留技術や濾過、再留についても書かれている点です。この時代、フランスのプロヴァンス地方では精油の抽出が始まっており、貴族が買い求めて贈り物にしました。

イタリアの学者ジョヴァンニ・デラ・ポルタは1535年頃には凹面鏡を使って、太陽光線を集約させて効率よく太陽蒸留を行ないました。抽出物の純度を高めるために5回蒸留することを勧め、この方法で蒸留した特別なワインから抽出したアルコール飲料は薬としての価値があり、"無限の病に効果がある"と書いています。

フィレンツェのメディチ家がグラースに目を付け、油脂産業と皮革業を発展させて行きます。その後に豊富なオリーブオイルと動物性油脂を使った石鹸工場と化粧品工場がつくられました。それらの製品と革製品に香り付けするために香水産業が発達しました。添加する精油は地元の花やハーブに留まらず、周辺の丘陵地帯やプロヴァンス地方にも及び、ラベンダーを始めとした精油の蒸留が盛んに行なわれるようになります。

スペイン人たちは南アメリカに渡り植民地政策を拡げる際に、ペルー人たちが蒸留器を使っているのを観察し、過去のフェニキア人からの伝播と理解します。さらには日本や他の国々も蒸留器を使用していることを記録しています。これも各民族が蒸留をしていたのではなく、交易と共に蒸留技術が世界に伝わったということです。

17世紀にはアルコールは英語圏で"ブランドワイン"または"ブランディーワイン"と呼ばれ、これが現在のブランディーになります。ブランド(brand)の語源は燃えることや焦がしたことを指し、蒸留に使う火を表しています。日本でも日本酒を蒸留したものを"焼酎"と言いますが、これも"焼く"という字が入っています。フランスでは蒸留酒は"オー・ド・ヴィー(生命の水)"と呼ばれています。

1651年にジョン・フレンチの書いた"蒸留の技術"は英語圏で最初の蒸留についての本でした。"蒸留は四元素の粘液質からスピリチュアルでエッセンシャルなものを抽出する技術である"と書かれており、数々のレシピは植物の蒸留だけでなく、浸出油、チンキ剤、アルコ−ル濃度を高くするための再留などについても記述があります。

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ボイルの法則で有名な物理学者ロバート・ボイルは、錬金術師でもありましたがアルコールに含まれるスピリット(精霊)の存在は否定し、より実質的なアルコールの精留や木から精油を採る方法について記述し、液体比重計の改良品を発明しました。19世紀まではアルコールは粗野に蒸留され、35%のアルコール分と質の悪いフレーバーしかとれず、60%のアルコールにするには再留が必要でした。1817年にはドイツのビール醸造所を持つヨハネス・ピストリウスが近代的な蒸留器をデザインし、85%のアルコールを1回の蒸留で抽出できるようになり、現在では96.8%を1回で抽出できるようになりました。芳香植物の精油や生薬の成分抽出では常に改良が行われ、素材によって経験的な知識による適切な蒸留法を開発して行きます。ここに科学技術の発展が大きく寄与しています。


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# by lsajapan | 2017-11-02 23:15 | インスピレーション