<88>スピリチュアリティとは:その4

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再びHubblesiteより。これは3つの月の陰が写っている木星です。きれいですね。

今回でこのトピックは完結です。

スピリチュアルだけれど宗教的ではない
「スピリチュアルspiritualだけれど宗教的religiousではない」という言葉をよく聞きます。目に見える物質世界を超えたものに意識的で、決してひとつの信仰に捕われないことを指します。日本人の多くはこのタイプだという認識される方が多いのではないかと思います。でもよく考えてみれば、やはり仏教思想は根強く、死んだらおしまいとは考えない方が多いのではないかと思います。

人生は修行であり、困った時には神頼み、初詣に行き、お墓にお骨を収め、仏壇に位牌を置いて亡くなった家族や先祖のために花を飾りお供えをし、祈り話しかけると言う習慣は身に付いているものです。ひとつの厳格な宗教に縛られていないとは言え、個々がスピリチュアルだという社会文化背景が日本にはあります。言って見れば、ひとつに縛られない多種の宗教を受け入れられる態度が本当のスピリチュアルなのかもしれません。
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ホワイトターラー:チベット仏教の穏やかな女性の神様です。私はよくこのターラー神のことを考えますし、絵も飾っています。

おしまいに
人間の永遠の疑問: 私たちはどこから来て、どこに行くのでしょう?なぜこの世に生を受けたのでしょうか?この答えを出すために私たちは自らのスピリチュアリティを発展させて行く必要があります。この誰もが持つ疑問に理論的に取り組んでも答えは出て来ませんし、誰も立証できません。

数年前、京都の禅宗のお寺に置く小冊子を頼まれて英語に翻訳しました。その中に同じ質問がQ&Aのセクションにあり、答えが「わかりません。誰も見たことがないので」というのがお坊さんからの答えで驚いたことがあります。とても率直、正直ですごいと思いましたが、その後その部分はディスカッションの対象になったようです。

この問いには結局、各自が答えを一生かけて見つけて行く必要があるのではないかと思います。真のスピリチュアリティはその人の人生への向き合い方、世界観に関わります。ホリスティックに1人の人間を見るのなら、身体と心と同じくらい重要視してその人のスピリチュアリティを垣間みる必要があります。

参考文献:The Secret Language of the Soul   Jane Hope
     World’s Religions      Huston Smith
    The Sacred Paths of the East    Theodore Ludwig
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# by lsajapan | 2016-04-13 03:23 | インスピレーション

<87> スプリチュアリティとは その3

Hubblesiteより「カリナ星雲」
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地上では桜もきれいですが、やっぱり宇宙はすごいですね。

精油150種類とキャリアオイル30種類を書き終えました!まだレシピのページや最初の基本的な部分がこれからですが、メインの部分を書き上げて一安心です。出版するころにはまたセミナーをして、今回見つけ出した面白い精油の話をできればなと思います。本当にリサーチは楽しいです。それと共にワンダ・セラー氏の「ペトラ」という小説も校正の段階に入りました。翻訳が終わったのが1年以上前なので、少し時間がかかってしまっていますが・・・こんな感じなのでなかなか毎週ブログをアップできませんが、今回シリーズでご紹介して来たトピックを続けます。あともう1回続けて終了になりそうです。

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<86>からの続きです:

中世
中世ではキリスト教が広まり、宗教心のあり方や信心深さをスピリチュアリティとしました。信者たちは三位一体の考えで神と子と精霊(Holy Spirit)の存在に祈ります。神はヤフウェ、子はキリスト、そして精霊とはミステリアスで強い風のような存在だと言われています。宗派で見解が違いますが、個人的に手助けしてくれる存在であったり、必要な時に囁いてくれる力を表すこともあります。精霊は人々と常に一緒にいて、心を自由に楽しく幸せに保つ助けをしてくれます。11世紀になるとスピリチュアリティは、より精神的なものを指し、物質や官能的な人生の側面と相反するものという考え方に変化して行きます。13世紀には社会的、心理学的な意味合いを持ちます。社会的には聖職者の領域を指し、心理学的には内面にある純粋な意図や動機、愛情、その性質などを意味しました。辛い時代を乗り越えるためには信心深さが必要で、それがその人のスピリチュアリティであり、神との関わりが強いヒーリング効果をもたらしました。
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ミュンヘンの教会にて
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これはミュンヘンの別の教会ですが、黒死病の時の恐怖を描いています。

近代
18世紀に科学が発達する前は、世の中の事象は物質世界を超えた天界や天使や悪魔の影響で起こると信じられて来ました。重力や細菌などの科学的な見解が出て来ることで、今までの考え方が大きく覆されます。それでもスピリチュアリティは人間社会の重要な精神性として残りますが、個人の考え方により迷信的にとらえられるようになってきます。一方、19世紀の終わりの世紀末には降霊術や交霊術などが流行し、エマヌエル・スウェーデンボルグ(17〜18世紀の科学者、神秘主義者)やヘレナ・ブラヴァツキー(19世紀の神智学者)などの著作がもてはやされました。神や天使との会話や死後の霊魂の存在、霊とのコミュニケーションなどを扱います。欧米社会でのスピリチュアリズムはキリスト教との兼ね合いが重要で、聖書の教えに背くことがあると、人々が離れて行ったり、協会側から弾圧される危険性は常にありました。この動向は「スピリチュアリズム」として扱われていますが、現在の日本での「スピリチュアル・ブーム」で扱われているのは、この「スピリチュアリズム」と「スピリチュアリティ」の両方が混在しているようです。意識をどこに置くかで次元が変わると言えるでしょう。
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エマヌエル・スウェーデンボルグ
(私はサンフランシスコで1987年に結婚しましたが、結婚式をしたのがスウェーデンボルゲン・チャーチだったんですよ!すごく素敵なパシフィックハイツにある小さな特別な教会です…30年前なんて信じられません)

現代
1960年代のニューエイジ運動では、宗教色とスピリチュアリティが少し異なる意味合いに使用され始めます。内面の探究、精神世界との関わりが大きくとりあげられ、東洋文化を代表とする様々な異文化の様式を取り入れて悟りや目覚めを求めて瞑想や内省に励む人々が増え、一種のブームとなりました。流行ものには常に質の悪いグループがおり、ビジネスとしての悪用や新興宗教なども台頭して社会問題にまで発展しました。スピリチュアリティは他から与えられた形式で集団催眠的、自己陶酔的なものでも、雰囲気に流されてファッション的に行なうものでもなく、自分の内面との深い関わり合いが重要であることが理解されて行きます。でも人間は常に弱いもので、人生の辛い局面では高次の存在と思われるものに飛びつきたくなるものです。

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それでは次回は最終回です。1週間〜10日くらいでアップする予定です。今回の一連の「スピリチュアリティとは」の記事は現在発売中の「アロマトピア」に載っています。他にも様々な終末医療に関する記事やグリーフケアについて、現場のお医者様たちのお話がたくさん載っており、じっくりと読めます。やはり生命や魂についてよく考えてみるのは大切なことですね。特に自分や家族が重大な病気にかかったときや、死と向き合わなくてはならないときのことなどが書かれています。

私も母との会話をたくさん思い出し、亡くなる1ヶ月くらい前に「亡くなった両親や兄さん、姉さんが皆一緒にいて、その家を訪ねて来たのよ」とその前夜に見た夢を話してくれました。今日は帰るからと言って、帰って来たのだけれど、お姉さんが門のところまで一緒に送りに出て来てくれて、いつまでもいつまでの心配そうに見ていたと話してくれました。そしてちょっと遠くを見て「みんな一緒にいるのかしらねえ・・・」と懐かしそうな顔をして言っておりました。思い出しても泣いちゃいます。でもきっと今頃、末っ子なのでみんなに甘やかされているんだと思います。

本当に面白いなと思いますが、母の法事が終わったあとや、父の事を手伝ったあとに必ず天国からプレゼントをくれるんです。父が弟家族と住むことになって(至近距離ですが)引越しを手伝った最後に父が「そうだそうだ、これいる?ママが昔から持っていた北斎の東海道五十三次の版画コレクション」昭和40年くらいの朝日新聞社発行のフルセット。すごい。「パパいらないの?」「持って行きなさい」一番喜んでいたのは主人でしたが。そして三回忌が終わった後、父が「高島屋から電話があってリフォームのために預かっている宝石どうしますかって。3年くらい前に預けてそのままだったらしいよ。とってくれば?」素敵なアクアマリンでした。あといくつかあるのですが、どう考えても空を見上げてニッコリしてしまいます。
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# by lsajapan | 2016-03-31 15:56 | インスピレーション

<86> スピリチュアリティとは その2

寒さと暖かさが交互にやって来て、何だかいつもハズレの服を着てしまう今日この頃です。精油の本もまだまだ書き上がらないのに締切は近く、ベッドできちんと眠りたい・・・です。それでは先週の続きの記事をアップします。今回はスピリチュアリティの歴史の前半を紹介します。
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ハッブル宇宙望遠鏡がとらえたスワン星雲(HUBBLESITEより)現実とは思えない美しさ。コンピューターグラフィックスではありません。現実の世界です。

スピリチュアリティの起源
歴史として見ると、最初はアニミズム(精霊信仰)から始まったと考えられています。アニミズムとは生物、非生物を問わず全ての存在にはスピリットが宿るという考え方です。日本でも「八百万の神」という考え方があり、世界各地の先住民たちはその土地それぞれの信念体系に基づいたスタイルでアニミズムを実践して来ました。ネイティブアメリカン、インディオ、アイヌ、チャモロ、マオリ、アボリジニーたちなどに見られ、共通することは自分たち以外の存在に敬意を持ち、超自然的な見解を日々生活の一部にしていたことです。そしてシャーマンの存在が欠かせず、特別な力を持ち変性意識のもと高次の存在と交信したり、憑依させて自分の身体を通して目に見えない存在に語らせました。シャーマンは儀式や占いをし、病気は邪悪なスピリットが起こすと考えたので、薬草や特別な石などを使ってそのようなスピリットを祓い、ヒーリングを行ないました。結局この考えは科学が発達して病原菌などの病因が理解されるまで、世界中で続きます。
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女性のシャーマン。1880年頃(米国のグラフ雑誌:ライフ・マガジンより)

ネイティブアメリカンの青年期に入る男性はビジョン・クエストという精神修行を行ないます。他の文化圏でも別の呼び方で様々な方法で成人になる通過儀礼があります。ここでは最初の4日間は絶食し、1人で落ち着く場所を探して瞑想に入ります。この時にビジョンに現れて来た精霊やパワーアニマル(狼、鷹、ヘビなど自分に特別な親和性と力を与えてくれる動物)に向かって祈り、語りかけます。この期間に人生の目的や社会に貢献する一番良い方法を見いだします。しっかりと自分のスピリチュアリティを意識して見据えるパワフルな経験となるのではないかと思います。

古代文明
古代文明では神官、僧侶、巫女などが神や精霊と交信し、儀式を執り行ったり、異次元の世界からのメッセージを受け取り、予言をしたりヒーリングをしたりしました。日々の生活において自分たちを守り、手助けをしてくれる存在を信じて祈りを捧げることは世界中のどんな時代の人々も共通して行なってきたことです。目の前の物質的なものだけに捕われず、自分たちよりも高次の存在を自然現象や動植物の中に見いだしました。これらの存在を意識し崇め、相互作用することがスピリチュアリティの実践でした。世界の宗教の特色に見られるスピリチュアリティは、その宗教の発達した背景が深く関わっていると考えられています。砂漠の民たちは一神教で神と自分の関係性を突き詰め、他の神の介入を許しません。自然環境に恵まれ、山や谷、森やジャングル、海や川などがあるところでは多神教が発達します。
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日本の仏閣の緑の深さは比較するとよく理解できます。外国から帰ってくると、成田の上空から緑一杯の日本の土地を感謝する気持ちで一杯になることがよくあります。この写真は数年前に訪ねた京都の鞍馬山のふもとにある貴船神社です。
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ムスリムの礼拝風景
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ユダヤ教の嘆きの壁
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コーランに書かれている言葉で「この世の終わりには親も子もなく、頼れるのは神と自分だけ」という究極の教えがあります。この環境ならそう考えるかも知れません。

来週は中世から近世へと話を進めますね!
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# by lsajapan | 2016-03-11 00:22 | インスピレーション

<85> スピリチュアリティとは:その1

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ハッブル宇宙望遠鏡がとらえたオリオン星雲 (HUBBLESITEより)

2月も今日で終わりですね。春の気配も感じつつも朝晩はまだまだ寒い日が続きます。私は現在150種の精油の本を執筆中です。ピエール・フランコム氏のフランス語の文献も取り入れてリサーチを重ねています。今回は頸椎症が再発しないように、本気で体力作りしながらの執筆です。少し遅れ気味で心配ですが頑張ります!

今回は次号のアロマトピアに寄稿した記事の一部を紹介します。長いので、3回に分けて少しずつ載せることにしました。毎週アップしていこうと思います。「スピリチュアル」に関する特集で、私は「スピリチュアリティの歴史ーーヒーリングとの関わりと過去から現在までの変遷」というタイトル記事を担当しました。その最初の出だしのところです。

「スピリチュアリティとは」

スピリットとは人間や動物に宿る生命力であり、語源はラテン語の”spiritus” (スピリトゥス、呼吸、活力、勇気)から来るもので、その形容詞が「スピリチュアル」ということになります。名詞にすると「スピリチュアリティ」で、一般的には「霊性」や「精神性」と訳されます。

定義は様々で、宗教的、文化的にも違う概念でとらえられています。神とのつながりから見いだすもの、自分の中から禅や瞑想,内省によって見いだすものなどその道も多岐に渡ります。現在、一般的にとらえられている「スピリチュアリティ」の意味合いは、その人の精神世界との関わり方を示し、「スピリチュアル」であることは精神世界や輪廻転生、高次の存在を信じるタイプの人々を指します。ちなみに「スピリット(霊性)」と「魂(ソウル)」とは完全に一致するものではありません。
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魂は特に東洋思想では輪廻転生するその生物に宿った人格を持つ永遠の存在を指します。古代エジプトでもスピリットはカー、ソウルはバーと分けて考えています。「カー」(スピリット)は生命力を象徴します。人間が生まれる時にカーは吹き込まれ、死ぬ時に身体から離れます。一方「バー」(ソウル)は魂や個性を表し、身体が死んでも生き続けます。バーは人間の頭部と鳥の身体を持つ存在として墓から飛び立ちます。そして来世でカーと合流して再び人間として機能します。
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写真の「口開けの儀式」はミイラを墓に入れる前に神官が行う儀式のひとつで、親族や友人の前で死者のミイラの口を開ける動作をして、感覚を呼び戻して呼吸ができ言葉をしゃべれるようにします。さらに供物を飲食できる能力が与えられます。困ったことがあると亡くなった家族に手紙を書き,助けを願いました。日本の先祖供養と少し似た考えを持っていたのではないかと思います。

この続きは来週に続きます・・・次回は「スピリチュアリティの起源」
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# by lsajapan | 2016-02-29 07:50 | インスピレーション

<84> 歴史に見る世界の香りの媚薬と効果

もう1月も終わり・・・信じられなほど早いペースで日々が過ぎて行きますね。この分だと春ももうすぐと思いたいところです。私は現在150種類の精油の本を書いています。今回の本はフォーマットデザインなどが先に決まっており、写真も多く入る今までになかったタイプなので、とても楽しみにしています。6月出版なので2月はかなり集中しなくてはなりませんが、頸椎症を再発させないように気をつけて取り組んで行こうと思います。

ちょっと先走り気味ですがバレンタインデーにちなんで、今回は去年「アロマトピア」に寄稿した媚薬の記事を紹介します。リサーチは前々から少しずつしていたので、ネタはいっぱい。ロマンティックなレシピものせてみました。ホロホロ鶏など少し珍しい鳥類は、ナショナル麻布マーケットで売っています。
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世界中で愛されてきた媚薬
全ての文化圏にはいつの時代にも“媚薬”や“惚れ薬”の類いは存在し、人々は昔から常にどのようにして愛する人の気持ちを向けることができるかを研究してきました。”Love Portion(媚薬)”と言うと古典の文献では魔法の薬と考えられており、手に入れるのが難しいサイの角、ツバメの舌、ドラゴンの血、ベラドンナやマンドレークなどが材料に入っています。基本的にその時代において貴重でエキゾティックなスパイス類や刺激物、強壮作用のあるものや香り高いもの、甘くカロリーのあるものが多く、珍しいもの(もしくは実際には存在しないものを本物のように見せかけたもの)はより珍重されたようです。また、砂糖やチョコレート、ブラックペッパー、ヴァニラなど現代の生活ではもはや刺激物とは感じられないほど日常的に使用するものも含まれています。古来より媚薬には人々を陶酔させる成分や秘薬的なストーリーがあるだけでなく、香りが重要な役割を担っているようです。
媚薬の概念は様々で、大きく分けると以下のようになります:
*ロマンティックな気分にさせるもの
*暗示作用を通じて心の抑制を解くもの
*心身をリラックスさせるもの
*興奮剤、刺激活性剤
*健康増進作用、滋養強壮作用のあるもの
*中枢神経を刺激し、性的な強壮作用を持つもの

中国では陰(女性)と陽(男性)が結合すると気(スピリット、エネルギー)が生まれると考えました。宇宙との関係でも同じく陰と陽の均衡が完全にとれれば、宇宙の波動と一体化できるとされています。
Kama Sutraには幸せなカップルになるためのアドバイスが以下のように書かれています。「食べ物や飲み物でお腹いっぱいにしてはいけない。さもないと卒中や関節炎を起こす。男性は強壮作用のある食べ物:芳香植物や肉、卵などを食べると良い。健康で活発な身体は女性を惹き付けるために必須である」
アリストテレスも「自分自身がある程度の体力がなければ、媚薬は役立たない」と記述しています。このように健康という前提の元に媚薬を勧めています。

香りの媚薬的使用
古代エジプト人は香を霊的体験と結びつけ、香の神ネフェルトゥムを香の煙により喚起することができたと言われています。そして古代ギリシャ人は香の使用法をエジプトから学び、祭礼にはフランキンセンスとミルラを使いました。神聖な香であるはずなのに、ディオニュソス神の祭礼では集団催眠的に利用され、陶酔状態をつくりだしました。さらにローマ帝国でのバッカス神の不道徳な祝宴へと発展して行きます。使用されたフランキンセンス、ミルラ、オニカ、ガルバヌム、ナタフ(蘇合香)は樹脂で、植物ステロールが含まれており、生化学的にはヒトのホルモンと酷似しています。これにより媚薬的な働きをします。

タントラ儀式では女性はパチューリを首、アンバーグリスを乳房、ムスクを鼠径部、ジャスミンを手、サフランを指に塗り、男性はサンダルウッドを額、胸、腋下、鼠径部に塗りました。肉体の基底に宿る眠れる蛇(クンダリーニ)を覚醒させ、精神性へと昇華させる神聖な儀式でありながら、快楽的で媚薬的な香りが使われます。ここではヒトまたは動物の分泌物:ステロイドを想起させるもの、またはそのものが多用されています。
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          ジャワ島のボロブドゥール遺跡のレリーフ

インドをはじめとする南アジア地域ではナツメグとメースを宗教儀式や媚薬として使用した歴史があります。少なくとも11世紀から使用されている有名なCNS活性による向精神作用のあるスパイスです。パウダー状にしたナツメグは中程度〜強度の抗精神作用、幻覚を引き起こす作用があります。意識を失う、社交的になる、気分が変化する、喉が渇くなどの反応が出て、ドラッグ類と似た反応だと言われます。精油中のミリスチン3.3~13.5%とエレミチン0.1~4.6%で、MAO(モノアミン酸化酵素)を抑制することにより幸福感を説明できるのではないかとされています。ミリスチンは神経伝達物質であるセロトニンをラットの脳の中で増加させるので向精神作用があるのではないかという報告もあります。
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              ナツメグとメース

クレオパトラは全身にジャスミンとサンダルウッド、またはフランキンセンスとローズを使用して政治的交渉をしたと言われています。その船の紫色の帆はローズウォーターに浸されました。シナモン、ジュニパー、フランキンセンス、ミルラ、サイプレスなどをブレンドした香料キフィがたくさん積まれ、この香りで「風まで恋に落ちた」と博物学者のプルタルコスが記述しました。古代の文献を紐解くとギリシャ、ローマ、中近東の女性は樹脂を使用することが多く、それが女性に似つかわしいとの記述も見られます。但し、使用でできる人々は限られており、階級によって使用する香りも違いました。階級や職業が違うと匂いの違いが激しいので、できるだけ同じ階級の中で社交をしたという報告もあります。
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              クレオパトラのレリーフ

マルグリット・モーリーは「生命と若さの秘密」に以下のように記述しています。「魂が神秘に近づく時、薫香は常にあります。世界中の寺院や教会は薫香やローズの香りに満ちています。・・・・恋に落ちた人々は香りに力を借ります。匂いのない媚薬はありません。旧約聖書のエステル記の主人公、エステルは香油につかり、クレオパトラの髪はミルラの香りがしたそうです」

17世紀の医師ニコラス・カルペパーは「マデラワインにジンジャー、シナモン、ルバーブ、ヴァニラを入れると媚薬的効果がある飲み物になる」とCulpeper’s   Complete Herbalに書いています。甘い食前酒のような感じですが、ジンジャーはセロトニン受容体に働きかけることにより、副交感神経を優勢にします。シナモンは加温作用、中枢神経の興奮を鎮静する作用があります。

一方、南の島々ではココナッツの甘い香りと熱帯の花々が媚薬として有名です。特に画家ゴーギャンをタヒチから離さなかったのは、モノイオイルだったとも言われています。モノイとは“芳香”という意味ですが、ココナッツオイルにティアレ(タヒチアン・ガーデニア、Gardenia tahitensis)という白い花を入れて浸出したオイルです。他の材料も加えることもあり、家々によって独自のレシピがあります。皮膚と髪を柔らかくし、甘く安心感のある優しい香りがします。女性たちのモノイオイルの香りはゴーギャンの絵から漂って来そうです。源流をたどるとタヒチにはマオリ人たちが約2000年前に移住して来て、儀式用に使用したものと言われています。ここでも媚薬と宗教儀式のオーバーラップが見られます。
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                 ティアレ

また、ミクロネシアの小島ナウルでは、女性たちが良い香りの花とココナッツミルクをブレンドしたものを擦り込み、芳香植物をブレンドした生薬を飲むと何日も身体の内側から良い香りを放ち「男たちが山のように寄って来る」といいました。トロブリアンド諸島(パプアニューギニア)では、ミントとココナッツオイルを煮詰めたものを眠っている意中の女性の胸に呪文を唱えながら数滴たらすと、自分のことを深く愛してくれるという媚薬の言い伝えがあります。

アラブ首長国連邦の女性は身体にはサンダルウッド、沈香、サフラン、ローズ、ムスクなどをつけ、髪にはアンバーグリス、ジャスミンなど、耳にはシヴェット、ローズ、サフランなどを混ぜたムカマリヤという赤い香油をつけます。夫と極親しい家族以外の男性がいる場に香油をつけて出るのは不倫と見なされます。男性は沈香、ローズ、サンダルウッドなどを耳の後ろ、手の平、ひげ、鼻孔につけます。イスラム世界ではアルコールは飲用が禁じられているだけでなく、皮膚にも使用できないので、香油の使用が原則です。ドバイでは白装束の男性の近くを通りかかるとほぼ例外なく沈香の深い香りがしました。香水店で売られている商品も圧倒的に沈香ベースのものが多く、暑く乾燥した土地ではとても心地よい魅力的な香り立ちとなっていました。

香りの情動に与える影響
オーストリアの調香師のパウル・イェリネクは以下のようにカテゴライズしています。植物性と動物性が含まれていますが、アンブレットシードやコスタスルート、ラブダナムなどは動物性香料の代用品として使用されている植物性香料です。

催淫:アンブレットシード、コスタスルート、シヴェット、カストリューム
官能的:チュベローズ、ジャスミン、バルサムトゥルー、ラブダナム、ベンゾイン、オレンジフラワー
陶酔させる:ローズ、バルサムペルー、ベンゾイン、イランイラン、マグノリア、ネロリ、カシア
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               イランイラン

さらにイェリネクはプロフェッショナルの香気判定士たちに樹脂と体臭について判定してもらい、やや酸味のある香りのミルラは金髪の人の体臭、甘い香りのフランキンセンスが黒髪の人の体臭、髪の匂いはオニカ、皮膚の匂いはナタフが似ているという結果になりました。この樹脂とフローラル系のオーデコロンをブレンドすることにより催淫性の強い香りができあがりました。これは体臭的な匂いと心地よい香りが結びつくことで媚薬的な効果を生み出すと言う例です。

マルグリット・モーリーは各個人の精神状態に影響する香りをブレンドすることを研究し続けました。適切な香りを使用すると知覚能力は明瞭となり。心地よい気分になれると記述しています。嗅覚神経は12の方向に分岐しており、梨状皮質では香りを知覚し、海馬と扁桃体では記憶との照合と情動への直接的な影響を与えることにより、香りが適切であった場合は媚薬的にも働くことになります。理論は介在せず本能的に反応します。香りが閾値に達していなければ本人も気づかないで影響を受けることになります。

このように香りの媚薬的な効果は、意識下で私たちに影響を与える可能性もあり、マインドコントロールや魔法にかけられるという言葉が似つかわしいサブリミナル効果、そして不思議な雰囲気に満ちています。

香りの媚薬の材料
媚薬は麻薬的成分や毒性成分を致死量に行かないくらいの微妙なレベルで使用するものが多く見られました。これらを少量使用することにより薬用として使用できるものも多くあります。ここでは危険なものは避けて、香りの良い媚薬の材料を集めてみました。

<植物性>
高麗ニンジン、ジンジャー、ブラックペッパー、オールスパイス、サフラン、シナモン、コリアンダー、クローブ、ナツメグ、トウガラシ、フランキンセンス、ヤドリギ、ロータス、ローズ、ジャスミン、ワイルド・オーキッド(Orchis mascula)、ヴァニラ、クラリーセージ、バジル、タイム、ローズマリー、セイボリー、オレガノ、ザクロ、イチヂク、アプリコット、マンゴー、バナナ、クルミ、アスパラガス、トリュフ、オニオン、黒糖、チョコレート、コーヒー
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広尾のラ・ビスボッチャのトリュフのフェットチーネ・・・美味しいけれど、いつも食べ終わる頃には鼻血が出そうになります

<動物性>
ムスク、アンバーグリス、シヴェット、カストリューム、蜂蜜、牡蛎、ホロホロ鶏(ギニアヘン)、羊、鳩、鶏卵、ウズラの卵、キャビア、鰻

芳香の媚薬的効果のあるレシピ
<18世紀のポルトガルの媚薬:エンジェルウォーター>
オレンジフラワーウォーター600ml、ローズウォーター600ml、マートルウォーター300ml、ムスクアルコール400ml、アンバーグリス400ml
これを現代版にすると:
ネロリ精油、ローズ精油,マートル精油 各2滴、アンジェリカシード精油、ラブダナム精油 各1滴をスピリタスウォッカ100mlに混ぜて一晩置き、1リットルの精製水に混ぜる
肌水やスプラッシュのように使用する。アンジェリカシード精油には光感作があるので注意。

<媚薬デザート:バナナ・フランベ>
バナナ2本、バター50g、ブランデー60ml、オレンジジュース60ml、ブラウンシュガー20g、ナツメグ1滴、ネロリ1滴、バニラエッセンス1滴
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<媚薬飲料:ローマンウォーター>
ザクロ2つ、ローズウォーター5ml、冷水300ml、レモン汁1/2個分、蜂蜜
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おしまいに
今回の記事を書き進めるにつれて、宗教儀式に使用されるものと媚薬として使用されるものがオーバーラップするという意外な事実に気がつきました。でもよく考えてみると、非日常的な感覚と陶酔に満ちた経験は究極の幸福感を導くものとして結局は似たものなのかもしれません。香りの反応は社会的、民族的、時代的な背景が強く影響するとは言え、甘く深いうっとり陶酔する香りはいつの時代も人々の心を惹き付けて来たと言えるでしょう。
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# by lsajapan | 2016-01-28 23:44 | インスピレーション